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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1452号 判決

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨

2  被控訴人

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人

(一)  法人といえどもその実体は、千差万別であり、公益、営利、株式会社、有限会社、組合、学校法人、宗教法人、社団、財団など大小無数である。従って、民法五五条の理事の代理制についても、その法人の種類、目的などにより、それぞれ的確な法的運用がなされるべきである。

(二)  管理組合法人は、建物区分所有に関する法律(以下「区分所有法」という。)によって認められた法人であり、複数の区分所有者が一棟の建物(マンション)を区分所有するため、そのマンションの維持管理にあたるために設立された団体であり、従って、これに関する法の解釈運用にあたっては、その目的に即して行われるべきである。

(三)  区分所有法四九条七項が準用する民法五五条は、法人が当事者となる問題につき、代表権を有する理事に関するものであり、法人自身の内部意思形成の過程の事項には適用されない。すなわち、本条は、理事が法人を代表して行う行為を他人に委任する場合には特定的であることを要し、包括的授権を禁止する趣旨のものである。

理事会における理事の意思決定については、管理組合法人の内部的なものであり、その決定できる権限も、管理に関して規約に定められた事項に限定されたものであり、このような意思形成段階に関してまで民法五五条の適用をうけるものではない。

(四)  管理組合の理事会に関しては、区分所有法などに別に規定がないので、私的自治の原則により、自らの規約に必要な事項を定め得るものであり、従って、右規約に定めた理事代理の規定も、合法的なものであり、優先的に適用せらるべきものである。

区分所有法の適用を受ける集団住宅は、その形態が一様でなく、特に、控訴人の組合にあっては、全戸常時居住せず、随時保養などのため、一時的に利用するいわゆるリゾートマンションであるところから、所有者が近畿六府県にわたり散在し、各自職業を有するため、理事といえども、常に理事会に出席することは事実上不可能であり、また、期待できない。従って、その代理制度は、会議の定足数の関係もあり、絶対的に必要であり、また、これを認めてもなんら不都合はない。理事の配偶者または近親者(規約では一親等に限定されている。)は、平素理事と同居し、区分所有建物を共用している関係上、組合事情及び審議案件に理事同様に、共通の知識を有すると思われるので、これに代理させることにしたものであり、代理制度を認めることにより、なんらの弊害もない。

2  被控訴人

控訴人の主張はいずれも争う。

三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因一ないし三の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  被控訴人は、控訴人の昭和六三年一一月二八日の総会において、控訴人の規約第五一条の「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」との規約を新設した本件総会決議は無効であると主張するので、この点について判断する。

1  民法五三条は、法人の理事は法人の事務につき法人を代表すると定め、同法五五条は、理事は定款、寄付行為又は総会の決議により禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる旨定めているところからすれば、法人を代表する理事については、その広範な事務執行につき、包括的に他人に代理行為をさせることはできないと解すべきところ、建物の区分所有等に関する法律四七条により法人とされた管理組合法人につき、同法四九条も、「管理組合法人には、理事を置かなければならない。」(同条一項)、「理事は、管理組合法人を代表する。」(同条二項)と定め、また、右理事については、民法五五条の規定を準用しているので(同条七項)、管理組合法人を代表する理事については、民法上の法人の理事と同様に、その管理組合法人の業務執行につき、包括的に他人に代理行為をさせることはできず、これに違反した場合には、無効と解し得る余地もあり得よう。しかし、民法では、数人の理事がある場合には、必ず各理事が法人を代表し、定款、寄付行為又は議会の決議によっても、理事が一般的代表機関であるという本質に反するような制限をすることはできないと解されるのに対し、管理組合法人の場合には、法律上、管理組合法人を代表する理事を置かなければならないが、必ずしも、数人(複数)を置く必要はなく、一人でも足りるし、また、数人の理事を置いた場合には、原則として、各理事が管理組合法人を代表するけれども、規約若しくは集会の決議により、管理組合法人を代表すべき理事と代表権のない理事とを定めることができるのである(同法四九条三、四項)。このように、管理組合の規約又は集会の決議によって、数人(複数)の理事を置くか否か、また、数人の理事を置いた場合に、管理組合法人を代表する理事と右代表権を有しない理事とを任意に定めることができるとして、これを管理組合法人の私的自治に委ねた法の趣旨からすれば、右管理組合法人の理事が、法人を代表して対外的行為をする場合は格別、単に内部的な事務を行う場合については、規約又は集会の決議によって、その理事の権限に一定の制限を加え、或いは、一定の場合にその権限の行使に代理を認め、理事会に第三者を代理人として出席させることができる旨定めることも(会議の決議が代理に親しむことは、建物の区分所有等に関する法律三九条の規定から明らかである。)、私法人である管理組合法人の私的自治に属することであって、これを一律に無効とするのは相当でないと解すべきである。また、これを実質的にみても、建物の区分所有者で構成される団体であって、建物の区分所有等に関する法律四七条によって法人となった管理組合法人は、もともとその各区分所有者の区分所有にかかる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うに過ぎないものであって、いわゆる積極的に事業を行うものではないから、理事会に出席して決議を行うなど、内部的な事務を行う場合の理事の権限行使につき、一定の場合に、右理事と生活を共にしたり、或いは、建物を共用する配偶者や一親等の親族等一定の範囲の者にその代理行為を認めても、管理組合法人又はその構成員に実質的な不利益を与えることはなく、むしろ控訴人のようなリゾートマンションの管理組合法人の理事会の円滑な運営にとって、必要でかつ妥当な場合もあると解すべきである。

したがって、控訴人の規約五一条の規定は、理事の行為について包括代理を認めたもので、民法五五条に違反し無効であるとの被控訴人の主張は採用できない。

2  のみならず、本件においては、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  原判決添付別紙目録記載の建物であるヴィラ椿二号館は、和歌山県西牟婁郡白浜町椿にあるいわゆるリゾートマンション(別荘マンション)であって、全部で九六戸あり、その区分所有者は、近畿の二府四県にまたがった広範囲に散在して居住している。

(二)  控訴人は、右ヴィラ二号館につき、区分所有権を有する区分所有者全員をもって構成する管理組合法人で、ヴィラ椿二号館の管理及び使用に関する事項等について定めるところにより、区分所有者の利益を増進し、良好な住環境を維持することを、その目的としている(控訴人の規約一条)。

そして、その業務内容は、(1)管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、清掃、消毒及び塵埃処理、(2)組合管理部分の修繕、(3)共用部分にかかる火災保険等に関する業務、(4)敷地及び共用部分の変更、処分及び運営、(5)修繕積立金の管理及び運用、(6)官公署、町内会の渉外事務、(7)防災、広報、連絡等の事務、(8)その他、である(同規約三〇条)。

(三)  控訴人組合には、理事長一名、副理事長二名、理事七名以上一〇名以内を置くとされ(同規約三二条)、理事長は、控訴人を代表し、かつ、その業務を統括し(同三五条)、また、各理事は、理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当するとされている(同三七条)。

(四)  理事は、理事会に出席してその決議に加わるところ、控訴人の理事会の決議事項は、(1)収支の決算書及び事業報告書、収支予算案及び事業計画案並びにその他総会に提出する議案、(2)規約の改廃、(3)使用細則の制定又は改廃、(4)修繕積立金及び借入金に関する事項、(5)区分所有者等に対する規約六三条に定める勧告又は指示等、(6)その他、である(同規約五二条)。

(五)  理事会は、開催の一週間前までに、会議の日時、場所及び目的を理事に通知して招集することになっているから(同規約四九条、四〇条)、各理事会毎に、当該理事会で行われる目的すなわち議事事項は、予め具体的に特定され、かつ、各理事に知らされていることになっているし、現実に、控訴人が理事会を開催するに当たっては、その開催前に、各理事に対し、その具体的な議事内容を通知している(〈証拠〉)。

(六)  現在、控訴人の理事は、七名で、理事長一名、副理事長二名、平理事四名で、理事長の金田佳壽子が大阪府豊中市に居住している外、他の理事は大阪市、奈良、京都、大阪府内の千里、東大阪等に居住しているところ、理事会は、毎月ほぼ一回程度、主として大阪市内で開催されているが、理事本人が右のように離れて居住しており、かつ、他に職業をもっている者が多いこともあって、従来から必ずしも本人が出席せず、配偶者等代理人が出席することがしばしばあった。

(七)  そこで、控訴人組合では、昭和六三年一一月二八日に、臨時総会を開き、満場一致をもって、「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」旨の規約五一条の規定を設けた。なお、右配偶者や一親等の親族は、主として、右理事と共にヴィラ椿二号館を共用しているものである。

以上の事実が認められる。

そうとすれば、右規約五一条は、各理事が、特定の理事会に事故があって出席できない場合に限って、その配偶者又は一親等の親族にその代理出席を認めたもので、かつ、右特定の理事会における議事事項は予め特定されているから、理事の行う行為につき、抽象的、包括的に代理行為を認めたものとはいい難いし、また、その代理人となり得る者も、配偶者又は一親等の親族に限り、それ以外の者には代理人となることを認めていないから、本件のようなリゾートマンションの場合には、右代理人となり得る者の範囲も相当であるというべきである。したがって、右の点からも、控訴人の総会の満場一致で議決で定められた右規約五一条の規定が、民法五五条やその他の強行法規に違反する無効なものとは認め難い。

三  そうとすれば、控訴人の昭和六三年一一月二八日の総会において、「理事に事故があり、出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」と定めた決議が無効であるとして、右無効確認を求める被控訴人の本訴請求は、失当である。

よって、これと異なる原判決は不当であるから、これを取消して、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用につき、民訴法九六条、八九条に従い、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 後藤 勇 裁判官 高橋史朗 裁判官 横山秀憲)

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